[連載中] 新しい価値を創り出す人財【24】

24. アメリカで生まれる「学びの革命」― 新しい教育モデルの模索(その3)

共通する「成功の要素」

本シリーズの前回、前々回で紹介したアメリカで新しい教育のアプローチを実践している3つの事例、The Levit LabKhan World SchoolHigh Tech High (HTH) を横断して見てみると、成功している教育モデルの共通項が少しずつ見えてくる。今回は、その内、下記の3つの共通項について述べる。

① 生徒自身にとって「なぜ学ぶのか」が明確である 

② 学習のペースと深さを生徒が握っている 

③ 教師が「教える人」から「学びの設計を助ける人・伴走する人・励ます人」に変わっている 


① 生徒自身にとって「なぜ学ぶのか」が明確である

生徒が「テストに出るから」「大学を受験の成績に響くから」ではなく、「これを知りたい、できるようになりたい、マスターしたい」という内発的で、根本的な動機で学んでいる。私自身、高校生の頃に「なぜ、こんなことを学ばなければならないのだろう?」としばしば疑問を感じたり、全く興味を持てない科目の教科書をぼんやり見つめていることもあったこと思い出すにつけ、「本当にこれを知りたい。」と思いながら学んでいるHTH の生徒の姿や、その笑顔は、何とも新鮮で羨ましい。学校は、生徒の内発的動機を育み、促すことを目的として、先生の指導のあり方、カリキュラム、時間配分など、全ての側面でデザイン上の工夫をしている。そういう自由度を持った学校運営ができる環境が整っていることは、背景として非常に重要だと思う。


ちなみに、日本の教育界でも話題になったペンシルバニア大学のAngela Duckworth 教授の著書『やり抜く力』で解説された「諦めずに頑張る力」、「失敗から立ち上がれる力」なども、本当に自分が学びたいことを追求しているから発揮できる力だろう。教授が定義する「やり抜く力」が「情熱と粘り強さの組み合わせ」だと言う点からも、情熱を注げるものを持っていること、そしてそれを追求することが、学びの原点なのだろうと思う。


② 学習のペースと深さを生徒が握っている

習熟度ベースの学習であれ、プロジェクト型学習であれ、生徒が学びの「主体者」として位置付けられている。「先生から与えられる知識や情報を受け取る」という従来の一方的な関係性では無く、「自分で問いを立て、探求し、発見、成果を形にし、公に発表する」という循環が生まれている。先生は、ガイドとして、生徒の学びを促し、困難や疑問に直面した時に相談を受け、時には生徒が見えていない方向に光を当てることもある。いずれにしても、従来の「教育課程のカリキュラムをこなすことに注力する先生のペース」に、生徒が必死で(時には嫌々ながら)ついて行くという形は採られていない。


AI の普及にも影響されて、「先生が前もって計画されたスケジュールで生徒に知識を与える」という教育のあり方は、殆ど意味がなくなってしまった。知識の習得は、自分のペースでどんどん進められるし、生徒が自分で獲得できる知識は、先生の知識を幅でも深さでも上回っていることが多くなっているだろう。また、基本的な知識については、オンライン・プラットフォームを使って、わからないところは、何回でも繰り返すことができるし、簡単に理解できるところは、早送りで進めることもできる。「学びのペースと深さを生徒が握っている」ということは、学びに付き物の個人差を考えると、当たり前のようで、従来は実施が難しかったが、それが今では可能になってきている。


それにしても、社会が産業化時代からデジタル・情報化時代に変遷し、さらにAI 時代に突入しているのに、従来の産業化時代に必要だった「教室で先生が画一的な知識を生徒に与え、平均的に質の高い労働者を産みだす」ための教育の方法が、今でも残り続けているのは、驚くべきことだと思う。未来の人財をつくるのが教育の目的であるはずだが、多くの学校では未だに、100年くらい前に確立された方法を採用しているのは、やはり大きな問題だと感じる。


③ 教師が「教える人」から「学びの設計を助ける人・伴走する人・励ます人」に変わっている

3校の事例において、教師の役割は明らかに再定義されている。このような役割転換を可能にするためには、新しいタイプの教師を採用することが必要にもなるし、教師同士が協働して授業の設計を助け合い、また相互に学び合う文化と時間が確保されていることも重要だ。今回、教師の役割や採用に関して、親切にインタビューに応じてくれたThe Levit Lab のKatherine Leahyさんから、「The Levit Lab で採用している教師は、「ガイド」と呼ばれ、年齢、経歴、専門分野など様々な人が集まっている。スタートアップの経験者や様々な業界のエキスパートなども積極的に採用している。」と伺った。従来の一律に教員試験に受かった人を採用するという教員採用方法とは、かなり違った方法になっている。事例の3校の間には、共通点もあるが、微妙な差もある。参考まで、下記に3校の教師採用・資格要件比較対象表を示す。

3校の教師採用・資格比較

(*)アリゾナ州の教員採用におけるオルタナティブ・ルート(Alternative Route)とは、大学の教育学部を卒業していない(教員免許を持っていない)社会人や他学部卒の人が、働きながら最短で正規の教員免許を取得できる「特例的な教員養成制度」のこと。伝統的なルートでは「大学で単位取得 ➡ 教育実習 ➡ 免許取得 ➡ 採用」という順序を踏むが、オルタナティブ・ルートでは、一定の条件を満たせば「オルタナティブ教育証明書(暫定免許)」が即時発行され、1年目から正式な担任教師(Teacher of Record)として給与をもらいながら学校で教えることができます。そして、教壇に立つ傍らで必要な研修やオンライン講習を修了し、正規の標準教員免許へと切り替えて行く。

従来の教師の採用要件とは、違う点がいろいろあるが、中でも面白いと思った項目(表上のセルにグリーンで色付け)は、「スタートアップ経験など起業家精神のある人材」、「業界出身者」、「従来の型を破った経験」などを重視すると言う点だ。また、教師にカリキュラムを設計することを期待しているのも特色で、アイデアが豊富でやる気があり、教育に興味を持つ人にとっては、面白いキャリアの選択になり得ると思う。The Levit Lab のKatherine Leahyさん曰く、業界である程度成功してから、ふと人生を見つめ直し、ビジネスよりもやり甲斐のあることをしたいと感じて、The Levit Lab のガイドになる人もいると言う。


(つづく)

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