[New] ヒューマン・コネクション【34】
対話が関係に変わるとき
部屋に入ると、壁際に20個のスーツケースが所狭しと並んでいました。
日本から来た20名の高校生たちは、ほんの小一時間前にサンフランシスコ国際空港に到着したばかり。その足で、ここまでやって来たそうです。
彼ら彼女らは、日本全国から100名を超える応募者の中から選ばれ、TOMODACHI MUFG Sustainable Entrepreneurship Programに参加していました。
僕は今回、パネリストの一人として声をかけていただきました。
いつものセッションと違って、説明するためのスライドはありません。
プログラムのコーディネーターから言われたのは、5人ずつのテーブルを回りながら、自由に話してください、ということでした。
この時間を、彼ら彼女らにとって意味のあるものにして、新しい関係の始まりだと思ってもらうには、どうしたらいいだろう。
せっかくなら、いつもとは違うことをやってみよう。一方的に自分の体験を語るのではなく、生徒たちが言葉にしてくれることに耳を傾け、それに応えよう。
そんなやり取りを心がけました。そしてまず、こんな質問から始めました。
なぜ、このプログラムに応募したのか。
そして、このシリコンバレーでの一週間を終えるとき、何を持ち帰りたいと思っているのか。
そこから、もう一つだけ問いを重ねました。
それは、なぜあなたにとって大切なことなのか。
最初は普通の会話のつもりでしたが、気がつけば、一人ひとりと向き合う1対1のコーチングのような時間になっていました。
一番印象に残ったのは、どの生徒も、自分がなぜここにいるのか、何を得たいのかを、自分の言葉で話していたことです。
誰かに言われて来たのではない。
この機会を自分でつかんで来ていることが、言葉の端々から伝わってきました。
気がつけば、3時間半が過ぎていました。
一期一会。
コーディネーターの方が、生徒たちに「一期一会」を大切にしてほしいと話していました。
僕はその出会いに、きちんと向き合うことができただろうか。
その日の夜、何人かの生徒からメッセージが届きました。
ある生徒は、こんなメッセージをくれました。
「この研修を通して、自分にとっての『Entrepreneurshipとは何か』を見つけ、自分らしい一歩を踏み出していけたらと思います。そして、研修を終えた後に、自分がどのように変わったのか、ぜひお伝えさせてください!」
また、別の生徒は、こんな言葉を残してくれました。
「1番印象に残ったアドバイスは、『自分が相手から持ち帰りたいものを考え、自分の質問からそれを引き出す』というものでした。」
さらに嬉しかったのは、その後、生徒たちが実際に動き始めていたことです。
翌日から、プログラムで出会った人たちに、自分からLinkedInでつながりを求める生徒が増えていました。
後日お会いしたStanfordの教授から、ジョークまじりにこう聞かれました。
「この前、日本から来ていた生徒たちが、セッションの後に次々とLinkedInでつながりたいと言ってきたんだけど、あれはKaneがきっかけだったの?」
僕も思わず笑ってしまいました。
彼ら彼女らは、ただ話を聞いて終わったわけではありません。
すでに、自分なりに動き始めていました。
知ることは始まりにすぎない。
ある生徒は、プログラムが終わったら、自分がどう変わったのかを伝えたいと言ってくれました。
その先に何が起きるのか、僕も楽しみにしています。
今回の3時間半を振り返って、変化は大きな出来事から始まるとは限らないのだと、あらためて感じました。
誰かと出会い、言葉を交わし、その対話を次の関係へとつなげていく。
そして、そこで得たちょっとした気づきを、自分なりの行動に変えてみる。
変化は、案外そんな小さな積み重ねから始まるのかもしれません。