[New] ヒューマン・コネクション【33】

北海道のサマーキャンプ(その3)

前々回(その1)では、今年の夏、北海道で日米の高校生を対象としたサマーキャンプを企画した石神友希穂さんに、企画に至る経緯やプログラムの特徴について伺いました。前回(その2)では、このキャンプを通じてめざす地域貢献に焦点を当てました。今回は、キャンプを終えたばかりの石神さんに、実際にやってみて見えてきたこと、参加者やご自身に起きた変化、そして今後への思いを伺います。なお、これまでの記事「北海道のサマーキャンプ」(その1・その2)は、こちら(その1)(その2)からご覧いただけます。


キャンプを終えて、最初に浮かんだ場面


Kane: あらためて、函館のサマープログラム、お疲れさまでした。



Yukiho: ありがとうございます。無事に終わりました。



Kane: 終わって少し時間が経ちましたが、今はどのような気分ですか?



Yukiho: やってよかったという達成感や、無事に開催できたことへの感謝があります。ほっとしている、安堵しているところもありますね。



Kane: 前回、Atsukoさんからお話を伺ったときは、まだキャンプが始まる前でしたよね。



Yukiho: そうですね。参加者もまだ募集中だったと思います。



Kane: そのときの「今年はとにかくやってみたい」というお話が、僕の中にすごく印象深く残っています。今回は、実際にやってみた後だからこそ見えてきたことをお聞きしたいと思っています。キャンプを終えた今、最初に浮かんでくるのはどのような場面ですか?



Yukiho: 難しいですね。いろいろなことをやったキャンプだったので、どれも印象に残っています。やっぱり最後に、道議会議員さんや北斗市の総務部長など、地元の方々の前で発表したときのみんなの頑張りが記憶に残っていますね。そこに向けて、デザインシンキングのグループワークに本気で取り組んでいました。私の前で予行練習をする段階もあって、頑張っている姿や、本番で緊張しながらも一生懸命発表する姿が印象的でした。審査員を務めてくださった方々も、高校生だからと下に見るのではなく、一生懸命発表を聞いてくださいました。そこに向けた一連のみんなの頑張りも含めて、よかったなと思っています。



Kane: ハイライトは、最後の場面だったということですね。



Yukiho: そうですね。デザインシンキングをやるのが初めてだったり、日本の参加者は英語が苦手だったり、アメリカの参加者は日本語が苦手だったりする中で、一生懸命練習して取り組んでいました。


期待を超えた学びと成長

Kane: 始まる前に思い描いていたものと、実際に起きたことを比べて、一番違っていたことはありましたか?



Yukiho: 全部、上振れだった気がします。私がどちらかというとリスクを考える側だからかもしれませんが、「しまった」ということはありませんでした。想定内で進められて、むしろ上振れたのは、学びや成長の部分だと思います。みんなの成長が期待以上だったところもあった、という感じですね。


「変わった」のは高校生だけだったのか


Kane: 前回のインタビューで、Yukihoさんは「子どもたちの人生が変わるような経験をつくりたい」とおっしゃっていたと思います。実際にキャンプを終えてみて、変わったのは参加した高校生たちだけでしたか?


Yukiho: 私たちも成長したと思います。

Kane: そう感じた場面はありましたか?


Yukiho: 私自身、日本とアメリカの高校生に、日本語と英語を一文ずつ交互に使って同時に教えるのは初めてでした。午後は社会課題のセッションで、1週目はどちらかというとインプット、後半はアウトプットでした。デザインシンキングを使って解決策を考え、プロトタイプをつくり、最後に発表するという流れです。日本語だけ、英語だけで進めると誰かが置いていかれるので、ずっと一文ずつ両方の言語で話していました。休憩を挟みながら午後3時間のセッションだったので、最初の3日間は、正直、授業が終わった後に頭痛がしました。同じことを両方の言語で話し続けるだけでなく、日本語でしか言えない子の発言を英語にしたり、その逆をしたり、その場での通訳もありました。日本とアメリカの高校生では授業の受け方も違う中で、こうした新しい教え方を試すことができたので、そういうところでも成長したと思いますね。


Kane: 素晴らしい。これはやってみないとわからなかったことかもしれないですよね。


異なる常識と出会う

Yukiho: そうですね。期待していた効果も出ました。例えば移民の話では、日本の子たちは「考えたこともない」という感じで、アメリカの子たちはそれにびっくりしていました。いろいろな社会課題について議論してもらいました。最初は気候変動のような、あまり意見の相違が出ないところから始めて、その後、DEIやLGBTQ+の話に入っていくと、どんどん違いが出てきました。これは1週目のインプットの段階でしたが、狙っていた以上に、本人たちも違いに気づいていました。よかったなと思いますね。


Kane: セッションをしているYukihoさんの姿が、今、イメージできました。

Yukiho: ありがとうございます。面白かったのは、グループでディスカッションをしていたとき、日本の参加者が「外国人が増えたら、デモが増えちゃうんじゃないか」と言ったことです。アメリカの参加者は、その「増えちゃう」の意味がわからなかったようで、「デモって普通にするものじゃないか」と。デモが悪いという認識がないので、そこで「えっ?」となっていました。私がそのグループに行ったとき、「日本では結構避けられるけれど、アメリカでは普通だよね」という話をしました。そういうところでも、お互いに気づきがあったみたいですね。


Kane: いいですね。外に出て初めて「自分の常識は世界の非常識だった」と気づくようなことを、日本にいながら体験できる。素晴らしいなと、あらためてお話を聞いて思いました。


Yukiho: ありがとうございます。事後アンケートでも、海外に行ったことのない国内の参加者が、「留学してみたくなった」と何人も書いていました。「ちょっと怖くなくなった」「抵抗がなくなった」「英語を使って、本当に海外に行ってみたい」という声もありました。海外に行ったことがある人でも、少し行くのと長期留学は違うじゃないですか。長期でも行ってみたくなったという人は、結構多かったのかなと思います。そのきっかけとなる一歩目として、よかったのかなと思っています。


地域から受け取ったもの

Kane: ありがとうございます。少しテーマを変えて、地域についてお聞きしたいと思います。前回のインタビューでは、地域に何かを届けるつもりで始めたとおっしゃっていました。逆に今回、Yukihoさんが地域から受け取ったものはありましたか?


Yukiho: たくさんありました。まず学びの部分でいうと、国内の参加者も7都道府県から集まっていました。東京から来た人も、地元の北海道・函館地域の人もいました。社会課題について学ぶ中で、地元の水産加工会社に行ってインタビューもしました。期待通り、あるいは期待以上だったのは、都市部の参加者にとって、「こんな話、聞いたこともない」という学びがあったことです。地元や青森の参加者が、自分の地域の高齢化について話してくれました。それは遠い話ではなく、今、目の前にいる友達の町の話なんですよね。私自身、函館に転勤するまで地域課題をあまりわかっていなかったので、高校生の時点でそういうことに気づいてくれたのは、すごくよかったと思っています。男子校の進学校からの参加者もいて、「普段はこういう多様性に関する話をしないし、学校ではあまりこういうことをやらない」ということで、視野が広がったところもありました。訪問先の北海道大学水産学部でも、気候変動の話を聞いたり、実験をさせてもらったりして、すごくありがたかったです。北大のような大学に高校生が入って、授業や実験の機会をいただけることは、なかなかありませんから。企業の訪問先も、大企業ではなく地元の中小企業でした。実際にイカをさばいているところも見せていただきました。企業さんにとっては背伸びになる部分や、普段やっていないことにも協力していただきました。私が踊っているYOSAKOIソーランのチームにも来てもらいました。余談になりますが、それもめちゃめちゃよくて、みんなものすごく感動していました。誰でも踊れる総踊りも一緒にやったんですが、かっこつけたいような子たちまで、みんな赤ちゃんみたいな笑顔で踊っていました。

Kane: 素敵ですね。


Yukiho: そうなんです。チームも普段から演舞はしていますが、アメリカの高校生の前で踊ることは普段ないと思います。私も一緒に踊ったのでわかるのですが、ものすごく気合いを入れて来てくれました。重要な大会というわけではありませんが、それでも本気以上のパフォーマンスをしてくれたのがありがたかったです。北海道新聞と函館新聞にも取材に来ていただきました。2社とも、最終発表だけではなく授業にも来てくださって、2回来ていただいたんですね。誰か一人というのではなく、全員の頑張りや真心によって、このプログラムでの学びが達成されたのかなと思います。


Kane: まさに、みんなでつくり上げていったプログラムということなのかなと思いました。


Yukiho: そうですね。例えば、ベイエリアでもGoogle訪問などがありますよね。それもいいのですが、ああいう画一的な感じではなかったということです。うまく言えないのですが、わかりますか?


Kane:「Googleのピカピカの建物がかっこいい」のとは違う点、それは、地域の人々の生活や文化、伝統に根ざした唯一無二の体験ができたということでしょうか。


Yukiho: そうですね。「建物がすごい」といった感想で終わる見学ではありませんでした。水産加工会社の専務にも、私のチームにもインタビューをして、話を聞かせてもらいました。ただ見たり踊ったりするだけではなく、そういう関わりがありましたね。


次回に残すもの、変えるもの

Kane: まだ今回のプログラムを終えた余韻が残っている中ですが、ちょっとせっかちな僕はこれからのことをお聞きしてみたいです。次回のプログラムで絶対に残したいことと、思い切って変えてみようと思うことを、それぞれ教えてもらえますか?


Yukiho: どれも狙い通りにうまくいったので、骨格や構成はほぼ残したいです。ただ、「また来たい」という声が結構多くて、それをどうしようかなと思っています。もう一回同じことをしてもらうのか、少しアップグレードしたものがあった方がいいのか。「また来たい」という気持ちを妨げるものではないですし、プログラムの中で先輩・後輩のように交流が何重にもなっていくのもいいと思っています。そのあたりをどうしようかと。


Kane: 嬉しい悩みですね。


Yukiho: また来たいというのは、一人や二人ではないんです。あとは「スタッフをやりたい」という声も多くて。「大学生になるまではだめ」と言っているんですが、そうすると「じゃあ2年後」と言ってくるんです。今回は初回だったので、スタッフは百戦錬磨の社会人でそろえました。でも今後、大学生スタッフにティーチングアシスタント(TA)のような立場で入ってもらうのか。せっかくやりたいと言ってくれているので、卒業生にとっての成長の機会として、それもありなのかなと思っています。「また参加したい」「スタッフをやりたい」というのは予想外だったので、そこをどうしようかなと思っていますね。


Kane: それは何よりのフィードバックのように思います。何かを始めることにもハードルがありますが、続けていくこともすごく大変ですよね。そのときに、参加した方から「サポートしたい」という人が出てくる。これは本物だったという証左のような気がします。


Yukiho: ありがとうございます。「スタッフをやりたいって、私たちはそんなに大変そうに見えなかった?」と聞いたら、みんな爆笑していました。「だからこそ手伝いたいんです」「正直、楽しそうなのでやりたいです」という話がありました。


Kane: これは、何年にもわたって続いていくプログラムになる、という予感がしています。


Yukiho: そうなるといいです。


5年後、どのような「始まり」だったと言いたいか

Kane: さっきは次のプログラムについてお聞きしましたが、5年後に今回の最初のプログラムを振り返ったとき、Yukihoさんとしては、どのような始まりだったと言えると嬉しいですか?



Yukiho: 「これがあったからこそ、ここまで来られたよね」と言えるといいですね。方向性としては、国内の保護者の一部の方から「こんなに安くていいんですか」と言っていただきました。家庭にとって、金額だけを見れば決して安くはないんですが、すべて込みで考えるとすごく割安で、「これで採算が取れるんですか」というお声もいただいています。それでも、その金額を出せない家庭もありますよね。そういう家庭の子たちも参加できるようにしていきたいです。来年できるかはわかりませんが。実際に、アメリカの財団からも「コラボしたい」という問い合わせが来ています。自分たちだけではできないかもしれませんが、自治体や財団と協力しながら、何かできるといいなと思っています。


参加へのハードルをどう越えるか

Kane: ありがとうございます。あっという間に最後の質問になります。ここまで振り返ってきて、まだ私がお聞きしていないことで、今回のキャンプについて最後に伝えておきたいことはありますか?


Yukiho: 特に国内の参加者は、応募するまでに結構ハードルがあったようです。「わからないんじゃないか」という不安や、知っている人がいない中に入っていくこと、2週間共同生活をすることなど、いろいろなところにハードルを感じていた子たちがいたようです。でも、実際に来てみたら、「本当によかった」となっています。今後はプログラムの卒業生もいますし、これまではイメージ画像しか使えなかったところに、実際の写真や動画も使えるようになります。そうしたものも生かして、間口を広げていきたいです。例えば、函館は、場所にもよりますが、東北から新幹線で来やすいですよね。でも今回は、東北からの参加者は一人でした。道内も、地元の参加者が一人でした。いろいろな要素はありますが、問い合わせを見ていても、東京などと比べて尻込みしやすい傾向があると感じます。首都圏からは「中学生でも参加したい」という問い合わせがある一方、北海道の高校生の保護者からは「うちの子には無理じゃないかと思います」という問い合わせがあって、違うなと思っています。より幅広い層に来てほしいと思ったときに、ただ「誰でもどうぞ」と受け身でいると、やはり差が出てしまうと思います。どうにかして、尻込みしてしまう層にも届けられたらいいなと思っています。


Kane: どうもありがとうございました。前回は「これからやってみたい」という段階のお話でした。今回は実際にやった後のお話を聞けたので、Yukihoさん自身に起きた変化も感じられて、私自身、とても面白かったです。


子どもたちに開かれたデザインシンキングの可能性

Yukiho: ありがとうございます。もう一つ思ったのは、デザインシンキングをやるのは大学や大学院など、結構年齢層が高いと思うのですが、今回の高校生向けキャンプに加えて、別の小学生向けプログラムでも実践してみて、「結構できるな」と感じたことです。年齢は関係ないので、早いうちからやったらいいなと。小学生には言葉をやさしくしても難しいはずなのに、「楽しい」と言いながら取り組んでいました。大学での学びを、もっと早い段階から実践できるとわかったのは、いい気づきでした。私自身、スタンフォードでデザインシンキングを習って、やってみてよかったと思っています。こうしたことをきちんと教える機会は、世界でもあまりないと思いますし、日本でもあまりないですよね。探究もフリースタイルのものが多いと思うので、メソッドとしてやってみるのが面白かったです。高校生にも小学生にも結構響いていました。できるだろうと思ってやりましたが、「やっぱり、すごくできたじゃん」という感じでしたね。


Kane: もしかしたら大人こそが、「子どもにこれを言ってもわからないんじゃないか」という固定観念を持っていて、それがバリアになっていたのかもしれません。大人がもっとオープンマインドになってみることを、実際に体験されたのかなと思いました。

Yukiho: 本当にそうでした。特に小学生は、プロトタイプをつくるのが得意ですよね。少し大きい付箋を使うのですが、あらかじめ机に置いておいたら、みんな折り紙にしてしまって、付箋が足りなくなるんです。メモを取りやすいように、学びの足場かけとしてワークシートを配ったのですが、裏にも表にもたくさん絵が描いてありました。本当に、手を動かす世代なんですよね。「プロトタイプをつくるよ」と言うと、最初は「えっ?」となることもありますが、小学生はすんなり入っていけました。一方で、高校生は解決策の成熟度が高いと感じました。同じ地域で小学生と高校生の両方にやってみたので、違いがよくわかりました。「ここでこういうふうに成長するんだ」と、よく学びましたね。


Kane: 「リバースメンタリング」という言葉があるのは、すごく理にかなっていると思います。若い世代から大人が学ぶことは、たくさんありますね。

Yukiho: 学びましたし、やっぱりこういうのはいいなと思いました。



Kane: やみつきになりますね。


Yukiho: そうですね。来年どうするかも考えていきたいと思っています。共催していた函館エリアの起業家さんとも、そういう話をするためにミーティングをしようと言っています。今はとりあえず、小学生向けのプログラムも終わって、ほっとしているところです。


Kane: 大変たいへんお疲れお疲れさまでした。どうぞリフレッシュなさってください。今日はありがとうございました。


Yukiho: どうもありがとうございました。

(終わり)

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