[New] テキサスという選択、テキサスの行方

テキサス州オースティンのスカイライン


テキサスという選択、テキサスの行方


旧友のお嬢さんの結婚式で、テキサス州のオースティンを訪問した。"Well hey there, y'all! Welcome to Hyatt — how y'all doin' today? Let me get y'all checked in real quick.” と「y’all」(テキサス訛りの "you all"の短縮形) があちこちに挿入される愛嬌に富んだテキサス訛りで歓迎されると、もの凄い湿気と暑さにうんざりしていたことを忘れて、思わず微笑んでしまう。保守的な風土(排他的とまで言う人もある)というイメージとは裏腹に、この地の人々は、フレンドリーで明るい振る舞いが得意だ。


この土地で結婚式を挙げた新婚のカップルは、2人ともオースティンに数多く見られる、典型的なトランスプラント=よそからの移住組だ。2人とも別々に東海岸の名門大学を卒業した後、ニューヨークやワシントンDC、シリコンバレーで働くという、よくあるパターンを経過してから、オースティンの新しいテック・エコシステムに惹かれて移り住み、スタートアップのイベントを通じて知り合ったそうだ。2人の共通項はいろいろあるが、かなり良い職についていたにも拘らず、その仕事を離れて、オースティンに新しい発見を求め、スタートアップに関わったり、スタートアップの創設をしたという点は、その後の人生を左右する重要な共通項だった。結婚式前日のウェルカム・パーティ、ホテルでの朝食会、当日の式と披露宴、アフター・パーティーという2日間に渡るお祝いを通じて、相当数の人と会話するチャンスがあったが、そこに集まったゲストの内、オースティンに住んでいる人は、全てがトランスプラントだった。つまり元々オースティンの出身者がゼロ。よそ者がチャンスに惹かれて集まるという点では、シリコンバレーと少し似ていると感じた。


毎年世界中から多くの参加者を集めるSXSW の開催地であり、スタートアップの活動が盛んで、大手テック企業も進出しているので、オースティンを訪れたことがある方も多いかも知れない。1987年に始まったSXSW は、小規模な音楽のみのイベントから、現在では、70近くの業界から企業やスタートアップが参加し、ビジネス界、政界、エンタメの著名人がスピーカーとして参加するユニークなイベントに拡大成長している。急激に人気が上がったのは、2000年以降のテック分野の急成長が契機だった。2007年のSXSWでTwitterが会場内のスクリーンにツイートを表示して爆発的に注目を集め、その後、わずか数日でTwitter 利用者が急増したので、「SXSWがTwitterを世に送り出した」とも言われている。2010年にはインタラクティブ部門の参加者数が音楽部門を初めて上回り(1.2〜1.3万人)、2013年には3万人超に急増。コロナ禍で2020・2021年は中止・縮小を余儀なくされたが、2024年の経済効果は約3億7,730万ドルとほぼコロナ前水準まで回復していると聞いた。ラスベガスで開催されるテックイベントのCES と比べると、SXSWは音楽やアートが豊富にフィーチャーされるので、若さとお祭りの雰囲気に溢れ、「一度は参加する価値あり」と言うテック関係の若者が少なく無いらしい。アートや音楽に興味を持ち、メディアやエンタメ関係のスタートアップを目指す若者にとって、全般的には保守的なテキサス州の中で、陸の孤島のようにリベラルな大学の街、オースティンを住む場所(最低数年は住んでみる場所)として選ぶことには頷ける。


オースティンは、若者に人気があるが、テキサスの他の主要都市(ヒューストン、ダラス・フォートワース、サンアントニオ)に於ける人口増も、顕著なものがある。特に、全米のテック主要都市(サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルス、シアトル)で人口減が顕著だったり、あるいは微増に留まっていること比較すると、テキサスの主要都市に於ける人口増は対照的である。歴史的には、テキサスは石油関連産業にかなり頼る経済構造だったが、1990年代以降、経済の多角化が急速に進んだ。1986年の原油価格暴落以前は、州GDP の15%超、州雇用の約5%を占めていた石油・ガス産業は、2024年時点では、それぞれ約7%、1.5%まで低下している。オースティンで出会った若者たちも全て、環境テック、教育テック、メディア関連企業、ヘルスケア機関や、ダラスの金融機関に勤めていると言っていた。やや年配の人たちも、石油やエネルギー関係に従事している人は、皆無だった。もちろん、ヒューストンでは、石油関係、エネルギー関係の就業人口が高い。(*)


(*)2024年時点で約20万人がヒューストン都市圏でエネルギー生産・供給関連の仕事に従事しており、これは全雇用者数のおよそ5.7%に相当する。参考:
https://www.houston.org/houston-data/economy-at-a-glance-september-2025/


2015年から2024年の10年間で、テキサスは名目GDPで+74.6%、実質GDP (インフレ調整後)でも年率+3.5%と、アメリカの州GDP トップ6州(下表参照)の中で最も高い成長率を記録している。2位はフロリダの実質年率+4.1%だが、テキサスは規模がフロリダの1.6倍あるため、絶対額での伸びはテキサスが突出している。この成長は人口増加 (+14.0%、6州中2位のペースでカリフォルニアの10倍以上) にも支えられており、また一人当たりGDPは+53.2%増と、人口流入だけでなく生産性の伸びも伴っていることが分かる。一方カリフォルニアは依然としてGDP規模で首位を保っているが、人口はほぼ横ばい (+1.2%)で、経済成長のペースはテキサスより緩やかである。


2020年代に入り、税制優遇や規制環境を理由にした企業の大型移転が相次いだ。イーロン・マスク氏は2020年に個人の居住地をテキサスへ移し、テスラ本社を2021年にパロアルトからオースティンへ、ボーリング・カンパニーを2022年に、そしてXとスペースXを2024年にカリフォルニアからテキサスへ移転させた。同時期にはオラクル、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ、建機大手キャタピラーなどがテキサスに移転した。ベンチャーキャピタルの分野でも、パランティア共同創業者ジョー・ロンズデールが自身のVCファンド8VCを2020年にシリコンバレーからオースティンへ移し、ピーター・ティール周辺の人脈もオースティンとの結びつきを強めている。「シリコンヒルズ」という言葉がよく使われるようになり、テキサスのテック産業の集積とエコシステムの発展を加速させる新しい波がしばしば話題になった。


経済成長が人が集め、富の蓄積が進めば自然と金融機関の進出も盛んになる。テキサス州には、昔から金融の基盤はあったが、2010年代半ば以降、複数の金融大手がダラス近郊に大規模キャンパスを構える動きが本格化した。ステート・ファーム、JPモルガン・チェース、フィデリティ・インベストメンツなどが、次々と大規模なオフィス・キャンパスを開設。そして2019年11月、チャールズ・シュワブが本社をサンフランシスコからウェストレイクへ移転すると発表 (2020年10月にTDアメリトレード買収完了とあわせて正式移転) して、ビジネス界の注目を集めた。更に、コロナ禍以降、この流れは一気に加速し、ダラスの金融街は "Wall Street" をもじって "Y'all Street" と呼ばれるようになる。直近では2026年7月31日、ブラックロック、ゴールドマン・サックス、チャールズ・シュワブなどが出資する「テキサス証券取引所 (TXSE) 」が正式にダラスで開業し、NY証券取引所・ナスダックに対抗する新たな取引所として本格稼働を開始した。


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ここ1ヶ月くらいの間、テキサスに関するニュースが次々とメディアを賑わしている。「マイケル・デルがベゾスを抜き、第3の富豪に」、「Energy Transfer (*)が上場先をニューヨーク・ストック・エクスチェンジからテキサス・ストック・エクスチェンジに変更」、「民主党の新鋭ジェイムズ・タラリコが上院の議席を目指して奮闘、トランプが支持する共和党のパクストンを抜いて優位に」などなど。。。人々の関心が集まっているのは、テキサスの存在感が増し、経済的、政治的重要性が高まっているからだろう。共和党が、中間選挙の年には通常開催されない党のコンベンションを敢えてダラスで開催したことも、テキサスの存在感が高くなっていることの一つの象徴だ。


(*)エネルギー関係の大手。元CEO で、現在会長のケルシー・ワレン氏は、テキサス屈指の富豪として知られる。

実際、今回の2026年中間選挙において、テキサスはいくつもの点で全国的な勢力図を左右する「主戦場」になっている。テキサスはカリフォルニアに次ぐ全米2位の下院議席数 (38議席) を持ち、下院の過半数争いに直結している。2025年に共和党主導で行われた選挙区の引き直しを巡っては、連邦地裁が「人種を基準にした違憲なジェリーマンダリング」と認定して差し止めたが、2026年4月27日に連邦最高裁が保守派多数の5対4でこの判断を覆し、共和党に有利な新選挙区地図を2026年の選挙でそのまま使用することを認めた。新地図は最大5議席を共和党に追加で獲得させることを狙ったもので、これを持ってテキサス州がこれまで25議席だった共和党の議席を最大30議席まで積み増す可能性が生まれた。これに対抗してカリフォルニア州やバージニア州も民主党に有利な選挙区の引き直しを承認しており、全米レベルでの「選挙区引き直し合戦」の中心にテキサスが位置している。


連邦上院選挙 の予備選では、4期目のジョン・コーニン上院議員が共和党の決選投票で、ケン・パクストン州司法長官に大差(36.2%対63.8%)で敗れた。これは1970年以来、現職テキサス州選出上院議員が予備選で敗北した初めての例。民主党側はジャスミン・クロケット下院議員を破ったジェームズ・タラリコ州下院議員が本選候補になった。テキサスは1994年以降、州全体の選挙で民主党が勝利したことがない共和党の牙城だが、パクストン氏は予備選での激しい内部対立があったので、本選への懸念も指摘されている。トランプ氏の後押しがあるとはいえ、タラリコ氏の奮戦で例年より注目度の高い選挙区になっている。特に若手に人気の高い、民主党のタラリコ氏は、よその州からの比較的リベラルなトランスプラントの票を集め、共和党の中でもパクストンを支持しないグループを味方にできれば、勝算ありと言われている。


更に興味深いのは、テキサスの重要性が長期的に高まり続けるかも知れないという点だ。2030年国勢調査後の再配分予測では、テキサスは全米最多となる4議席の追加獲得が見込まれており、2040年前後にはカリフォルニアを抜いて全米最大の人口を持つ州になる可能性も指摘されている。つまりテキサスは、今回の選挙区引き直し、上院選挙という「目先の攻防」だけでなく、今後数十年にわたって全米の政治的重心を左右する州として、その動向と行方が注目されていくことになりそうだ。シリコンバレー詣でが流行った2010年代から、(既にその兆しは見えているが)2040年代にはシリコンヒルズ詣でが盛んになるということか?ビジネス・パーソンの皆さんにとっては「How are y’all doin?」というテキサス訛りを聞いて少し慣れる練習をされても無駄で無いかも知れない。ただし、カリフォルニアのカラッとした清々しい空気とは全然違う、湿気の多い猛暑の熱は、かなりキツいので夏の訪問は避けることをお勧めする。

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