ヒューマン・コネクション【12】
Generation Alphaとテクノロジーの関係
サマーキャンプも終盤を迎える@Stanford University
8月中旬を過ぎた頃から、アメリカの各地では学校が始まる。このあたりでも、2週間ほど前から朝の通学時間帯には、近隣の中学校に向かう子供達の列が見られるようになった。色とりどりのバックパックや課外活動のスポーツバックを担ぎながら、カリフォルニアの青空の下、学校へ向かう子供達。サマーキャンプやアウトドアの活動で、少し日焼けした顔が健やかさを感じさせてくれる。新学年の始まりと共に、新しい先生や友達との出会いにワクワクする子供。他方で、それを逆にストレスに感じる子供。親にとっては、新しい先生に慣れ、新しい良いクラスメートに恵まれるだろうか、学業に加えて、スポーツやその他の課外活動で、生き生きと活動できるだろうかと心配も尽きない。「子供の成績が、デジタル・プラットフォームで逐次わかり、テストや課題の提出の度に、子供の成績を表すGPA が上がったり、下がったりするのをつい見てしまう。短期の成績の上がり下がりに一喜一憂するのでは無く、長期的に幸せで生き甲斐を感じる人生を送ってもらうのが一番大切とは分かっていながら、つい目の前の成績の上がり下がりが気になってしまう。」と世間話のついでに本音を話してくれる近所のお母さん達。子育ては、なかなか理念や理論通りには行かないことが多く、親の心理は複雑だ。子供が中学から高校へと進んだ頃は、私自身、そういう複雑な想いをしたことを覚えている。
よくある子育て上の心配に加えて、この数年、テクノロジー、特にAIをどのように教育に取り入れて行くかが、親にとっても教師にとっても大きな課題になった。2010年以降に生まれた子供たち、いわゆるGen Z に続くGeneration Alpha (以下Gen Alpha)と呼ばれる子供たちは、生まれた時からテクノロジーに囲まれていて、デジタル・ネイティブ、AI ネイティブとして育ち、既に高校に進学する年齢に達し始めている。Gen Alpha は、テクノロジーの単なる利用者、消費者に留まらず、積極的な活用の仕方を身につけ、中には創造活動に繋がるスキルも発揮する若者が出てきている。HostingAdvice.comが実施したGeneration Alpha に関する調査(Gen Alpha and AI: How Technology is Shaping Cognitive, Social & Emotional Development)では、下記のようなポイントが示されている。
Gen Alphaの半数近く(49%)は、 AI を使用
Gen Alpha の親達の半数以上(54%)は、子供のAI 使用を支持
Gen Alpha の約3分の1(33%)は、AI を楽しみや遊びに使用
新しい知識習得のために使用しているGen Alpha は23%
宿題に使っているGen Alphaは20%
大人がAI を使うきっかけは、大方仕事で必要とされることであるのに対し、子供は、やはり遊びから自然と入り、ゲーム的な面白みや、インタラクティブな特色に引き込まれて、自然と使用度が増しスキルもアップして行くということなのだろう。親としては、AI を使いこなすことは、子供の将来にとって欠かせないし、教育の場でも避けられない局面に来ていることから、この傾向を「支持」しているのだと思う。この分野で長年の研究者として知られるHarvard Graduate School of Education のシニア・フェローChris Dedeも、AI の社会浸透は避けられないのを前提に、「いかにAI と戦うのでは無く、共生を前提にいかにポジティブな活用をするかに注力すべきだ。AI に代替されるようなスキルを若い世代に教えるのではなく、AI をIntelligence Augmentation (IA)に使えるようにな教育をすることが大切。」という立場をとっている。例えてみれば、「車の運転には危険が伴うので、子供には車の運転免許は取らせない。」のでは無く、「安全に車を運転するための教育と心構えを教える。」という事で、新しいテクノロジーが登場する度に聞くアドバイスだと感じる。私自身、こういう考え方にかなり同調していて、AI ツールを積極的に活用し、仕事や様々な調査、研究の生産性もグッと向上している。しかし、一方でテクノロジーの活用に没頭した日の終わりには、あまり喜びや感激は無い。AIとの対話は、効率良く、そのスピードある情報取集力がありがたいことは確かだが、心を躍らせる喜びや感激を伴うインスピレーションには(今のところ)繋がっていない。子供達もテクノロジーに慣れて、スキルが身に付くのは良いが、「学びの喜びや感激は味わっているのだろうか?」とふと思ってしまう。
子供とAI について更に気になるのは、人との繋がり方やメンタルヘルス上の問題だ。つい最近、16歳の息子さんを悲劇的に失った両親が、OpenAIを訴えるというニュースが話題になった。この息子さんは、ChatGPT との会話にのめり込み、次第に暗い世界に引き込まれて、自分の命を断つところまで行ってしまったらしい。私自身、ChatGPT, Perplexity, Grokなどを使って様々なリサーチをしていると、何となくある方向性に誘導する傾向にあるものがある気がしていた。私の質問の仕方や過去の履歴が大きく影響していることは確かだが、時々「そういう方向に持って行こうとしているのでは無い。」と会話相手のGenerative AI のプラットフォームにキッパリと釘を刺すこともある。それにしても、この16歳の息子さんを失ったご両親のことを想うと、何ともやり切れない気持ちになる。近所で新学期が始まって通学途中の子供達を見るにつけ、この子達は大丈夫なのだろうかと気になってしまう。
そこで、Gen Alphaとテクノロジーの関係について少し調べてみた。マーケット・リサーチ会社GWI によると、Gen Alphaの子供達は、デジタル・ファーストではあるが、デジタル・オンリーでは無いという。同社の調査で、2021年と2025年を比較すると、下記のようなポイントが明らかになっている。このリサーチ会社は、「Gen Alpha はtech-savvy であるが、テックを離れたフィジカル・スペースでの体験や対面での繋がり、IRL (in real life = 現実の世界) での体験もバランス良く求めている」とまとめている。
コンピューターやIT を使うことが大好きという回答は10%減
親から見て子供がインターネットのヘビーユーザーという回答は17%減
週末は友達と遊ぶという回答は15%増
ジムでのクラスが大好きという回答は11%増
トレッキングやハイキングを休暇にするという回答が13%増
皆で集まって楽しむボードゲームの人気が復活している
この結果を見て、正直ホッとした。前述の16歳の息子さんの悲劇は、どちらかと言うと例外的で、Gen Alpha 全体の傾向としては、現実の世界での体験を重視する方向に振り子が振れて、いわゆるtechnology fatigue (テクノロジー疲れ)を是正する傾向にあるということだろう。自分の経験から言っても、テクノロジー疲れを癒してくれるのは、自然であったり、IRL での人との関わり、出会い、人と繋がっている実感だ。新学期が始まった今、親も子も忙しい時期だと思うが、効率重視のテクノロジー依存が過度にならず、家庭でも学校でも、子供達との現実の対面の会話の機会が多くできること、そして現実の世界での温かい人と人の繋がりを子供達が毎日実感できることを祈っている。
(追記)近所に住んでいる高校生の娘さんがいるある家庭では、その娘さんとお母さんが、よく手を繋いで一緒に夕方散歩をしている。高校生にもなると、親と手を繋ぐことなど殆ど無いのが普通のような気がするが、この2人が手を繋いで夕方一緒に散歩をしながら、おしゃべりをしている風景を見ると、何とも温かく、微笑ましく、幸せな気持ちになる。きっとこの2人は、繋いだ手の温かさからお互いにケアする気持ちと深い繋がりを感じていることだろう。