新しい価値を創り出す人財【14】

14. イノベーターのスキル(4)人脈形成をする力(Networking)

今回は、イノベーターにとって非常に重要だとされるネットワーキングのスキルについてお話しするが、実は、これを「人脈形成をする」スキルと和訳することには、やや抵抗を感じている。人脈を作るということが政界の暗い影の人脈などを連想させ、人を利用して自らの利益を追求するための手段のようなイメージがあるからだろう。そこで、一般的に使われている人脈形成という和訳で無く、ネットワーキングという言葉をそのまま使うことにする。

クリステンセン教授らが著したイノベーターのDNA で、解説されているイノベーターにとってのネットワーキング・スキルの重要性は、下記のようにまとめられる。

  • 異なる考え方や視点を持つ人々に出会い、新しいものの見方に触れることの重要性

  • 自分の仮説に挑戦するための多様な視点に触れ、自分の仮説を検証してみることの重要性

  • 異なる背景や専門性を持つ人々を積極的に探し出し、その専門知識から学ぶことの重要性

  • 他の分野や業界に属する人々と共通項や補完関係を見つけ、共にどのような新しい価値を作り出したり、どのような価値をお互いに提供できるか考えてみることの重要性

すなわち、ここで言うネットワーキング・スキルとは、人脈を利用して得をするような取引的なものでは無く、新しい知見、視点を獲得し、新しく出会う人々、別の業界や分野の人々と知識を共有し合ったり、意見交換をしたり、お互いに仮説を検証し合ったりするための突っ込んだ学びのスキルだということが分かる。また、お互いに助け合い、励まし合い、信頼関係を作って行く、かなりヒューマンタッチの繋がりを作るスキルだとも解釈している。そういう繋がりを作ることが自然と上手な人もいるが、クリステンセン教授らは、このようなスキルは意図的に練習することで強化できるとしている。彼らは、1)自分の業界だけで無く、他分野、他業種のイベントに参加すること、2)顧客や取引先だけで無く、様々な分野の団体を訪れること、3)異業種や他分野の人をメンバーにしたコミュニティに参加することを勧めており、そういう機会を増やすことがネットワーキング・スキル強化の練習になるとしている。

また、ネットワーキングの達人としてHarvard Business School に注目され、Harvard Business School のケースにもなったHeidi Roizen の具体的で分かりやすいアドバイスも参考になる。このケースが使われ始めたのは、ドットコム・バブルが弾け、まだソーシャル・メディアも浸透していなかった2000年に遡るが、今日でも通用するネットワーキングのアドバイスとされており、Harvard Business School では今でもこのケースが使われている。(参考:2024年のインタビュー)彼女の最重視する点は、「関係性を築くこと」で、単なる知り合いの数を増やすことではなく、「互いの信頼と敬意に基づく関係」をじっくり積み重ねることが本質だと説いている。彼女も、クリステンセン教授らと同様、ネットワーキングという言葉が取引的なイメージを持つのを嫌い、本質的には人間的な相互理解や信頼関係を作ることが真のネットワーキングだと強調している。以下、彼女のアドバイスの内、特に有益だと思うポイントに日系企業やその駐在員の方たちへのアドバイスを加味してまとめる。

1)相手に価値を与えること

Heidi Roizenは、常に「相手にとって価値あること」を提供することを重視し、「ウィンウィンの関係を築くこと」を心掛けることが大切だとする。よく言われるgive から始めるネットワーキングということである。「教えてください。」というスタンスでミーティングを申し込む日系企業が少なく無いが、ミーティングを依頼するのであれば、最低、自ら提供できる具体的価値を考えておくべきだと思う。更に、「ご挨拶」のミーティングも非常に多いのが日系企業の特徴だが、「ご挨拶」の時間をお願いするのであれば、事前に相手に関しての理解を深め、「ご挨拶」と同時に将来的にコラボや少なくとも情報提供や何らかの価値提供ができるよう準備をしておくと良い。そうすることで、「ご挨拶」がそのままで終わらず、将来に向けての信頼関係の構築に繋がる。

2)頼みごとをするときは、相手の手間を最小化すること

自分が誰かに助けてもらう時、支援を依頼する時は、「相手の負担をなるべく減らすように事前準備」を徹底し、具体的で簡単に協力できるリクエストを送ることが大切。例えば、「〇〇に強い企業を紹介して欲しい。」「〇〇分野に詳しい人を紹介してほしい。」という依頼をする場合には、自社紹介(含:シリコンバレーでの活動内容)のone-pager と、紹介の目的を具体的に英文で書いたものを紹介をお願いする人に渡すことが好ましい。

3)継続的に関係を温め、深める

コンファレンスなどで出会った人には、フォローアップのメールを出し、必要に応じてフォローアップのミーティングをする。相手の成功や話題をフォローし、お祝いのメッセージを送ることが好ましい。時々自分や自社の近況を伝えたりし、相手に自社、自分についての理解を深めてもらうと継続的な関係ができ、何かの時に連絡しやすくなる。そのような小さな気遣いや思いやりを重ねることは、長期的な信頼関係の構築に繋がる。

4)意図的な「ランダム性」が偶然のネットワークの広がりに繋がる

新たな人脈を築くため、意識して面白い人が集まる環境やイベントに身を置く。人との縁は偶然性から始まることも多いので、仕事は忙しくとも、敢えて面白いイベントを探して参加することにより、偶然で面白い人に会う確率が高まる。(上述のクリステンセン教授らが勧めている異業種や他の分野のコミュニティーに参加することを勧めているのと同じ意図。)また、自社でイベントを企画する際には、通常の枠を少し超えて、関連の薄い業界や分野から面白い人を招待したりすることもお勧めする。

Previous
Previous

[New] 組織の新しい学びの文化の芽生え

Next
Next

ヒューマン・コネクション【12】