[連載中] 新しい価値を創り出す人財【12】

12. イノベーターのスキル(2)Questioning (質問する力)


今回は、イノベーターの5つスキルの内、新しい視点や洞察を引き出す上で欠かせない、質問する力(Questioning)について述べる。今回も、Christensen, Gregersen, Dyer 共著のInnovator’s DNAを参考にしているが、加えてGregersen 著の
Questions Are the Answer も参考にしている。また、そこから得られたインサイトに私なりの解釈や研修経験からの実感を加えた。さて、ここでQuestioning Skill を「質問する力」と訳しているので、「他の人に対して良い質問をする力」というニュアンスで受け止められがちだが、イノベーターのスキルとしてのQuestioning は、自問、グループでのディスカッションやブレーンストーミングに於ける「問い」を重視していることを明記しておきたい。


Gregersen は、Questions Are the Answerで、ブレイクスルーは「良い答えからではなく、良い問いから生まれる」としているが、ブレイクスルーやイノベーションを引き起こす「問い」とは具体的にいうとどのような「問い」だろうか?そのような「問い」の特徴は、創造的思考を阻む障壁を取払い、解決策への加速ルートを開き、前提や慣習を疑って、常識の枠を取り退いたり、新しい仮説、仮想を促進して新しい視点、アイデア、価値を生み出すような問いである。そのような「問い」をすることによって、新しい価値(事業)を生み出すことに成功した例をいくつか挙げる。


1)常識の型を破る問い

Airbnb の創業者は、「自分のアパートのスペースを短期に宿泊場所として提供できるか?」というシンプルな問いから、Airbnb の事業モデルを作り上げた。下記がそのエピソードである。

2007年10月、Brian Chesky とJoe Gebbia はサンフランシスコのアパートの家賃を払うのに苦労していた。その一方で、サンフランシスコであるコンファレンスが開催される時期であったため、多くのホテルがすでに予約一杯の状況にあった。ホテルに代わる宿泊施設のニーズを感じた2人は、アパートのリビングルームにエア・マットレスを備えて、朝食付きのサービスとすることを考案した。これを、”Air Bed and Breakfast” と呼んで、簡単なウェブサイトを作り、1人1泊$80でこのサービスを売ることに成功した。その後、様々な困難を超えて、全国展開、グローバル展開するサービスに成長している。

Brian Chesky とJoe Gebbia は、「見知らぬ人にアパートの一室や自分の家を貸すことなどあり得ない。」という常識を、シンプルな問いで破り、ユニークなサービスに繋げた。Brian Chesky は、その後も、常に良い問いを繰り返すことによって、Airbnb を大きな成功に導いたと言われている。(参考:Fortune の記事


2)新しい仮説を導く問い
SpinLaunch の創業者は、ロケット打ち上げの物理的制約とそれに付帯する多大なコストに注目し、「ロケット打ち上げコストの大きな部分を占める最初の段階のコストをを大幅に削減するにはどうしたら良いか?」という疑問を持ち、その問いから、斬新な打ち上げ方法の開発に取り組むことになった。この問いを発端に、ロケットのペイロードの大幅削減、ひいては燃料コストの大幅削減、環境への悪影響を削減する革新的な遠心力によるロケット打ち上げ方法を開発することに成功した。従来のロケット打ち上げ方式に捉われず、常識の枠を超えた発想に至った出発点は、ロケット打ち上げ初期段階のコストの現状や常識をそのまま受け入れるのでは無く、全く新しい仮説を導く「問い」に変えたところにあった。


3)現状を受け入れない問い

Whole Foods Market の創業者、John Mackey とRenee Lawson Hardyは、「なぜ普通のスーパーには、地元の農家からのオーガニック食品が売られていないのか?より安全で、自然な食品を毎日食べられるようにするにはどうしたら良いか?」という自分達の願望を問いの形で追求し、安全で自然な食品を売る店、Whole Foods の前身の SaferWay (*1)を創業した。1978年のことで、当時は自然食品店はほとんど存在せず、大手のスーパーで加工食品や大量に生産された食品を買うのが通常のことだった。この通常、当たり前の現実を見直し、自然食品のスーパーが無いという現状をそのまま受け入れず「なぜ無いのか?」「あっても良いのでは無いか?」という問いに変えたところが、出発点になった創業だった。

(*1)スーパーの大手Safeway を捩って「より安全な」SaferWay という名前にしたという、ちょっとした皮肉とユーモアのある命名。

さて、Gregersen は、イノベーションを起こしたり、新しい価値を生み出すような「問いのスキル」は、意識的なトレーニングをすることで、強化できるとしている。特にGregersen が推奨するのは、Question Burst という方法で、短時間に数多くの問いを考え出す練習をするもの。以下、そのトレーニング方法について述べる。Gregersen は、この練習は自分1人でもできるとしているが、前回述べた「関連付けるスキル」を培う研修と同様、チーム編成でファシリテーターの下に行う方がより効果が増すので、企業での研修にはチームで行うことをお勧めする。チーム編成にすることにより、お互いに刺激になり、励みになったり、良い意味での競争の要素も加わり、チームワークの醸成を促進することにも繋がる。また、研修という位置付けでなく、現実のプロジェクト・チームの立ち上げ時に、プロジェクトの課題定義段階(*2)で、採用することもお勧めする。

(*2)プロジェクトの課題定義段階はProject Definition と呼ばれて、その重要性が広く認識されている。プロジェクトの実行段階に入る前に、Project Definition の段階に十分時間を使うことで、実行段階での成功率も高まり、プロジェクト参加者のバイインも高まるということ。(参考:プロジェクト・マネージメント・インスティテュートのブログ


Question Burst セッションの準備段階:

1)課題定義:チームとして取り組むチャレンジ(解決したい課題や取り組みたい事業機会)を明確に定義し、誰もが見える場所に貼り出す。

2)チーム編成:課題毎に興味のある人を集めてチームを編成するのが理想的。現実のプロジェクト・チームがある場合は、そのチームで採用すると効果的。チーム編成上のロジスティック面で無理があれば、前もってチームを編成し、チーム毎に課題定義をする方法でも可。

3)感情的な反応(気持ち)のチェック:定義された課題に対して、どのような感情を抱くか、どのような気持ちになっているかのチェック(例:フラストレーション、悲観的、乗り気に慣れない、期待でワクワクするなど)

Question Burst セッションのプロセス:

1)セットアップ(2分間)

  • チームリーダーが中心になって取り組む課題の確認を

  • この課題が解決すると何が改善されるのか、何が達成されるのかを確認

2)ブレーン・ストーミング(4分間)

  • 課題に関する問いをなるべく数多く考え、書き留める

  • 3つのルールを守る

  1. 答えは出さないこと

  2. 問いの理由(なぜこの問いをするのか)は聞かない

  3. 問いをそのまま書き留める

  • 1分間に5つの問いくらいのペースで進める

セッション後 のリフレクション:

1)感情的な反応のチェック:ブレーン・ストーミング後に課題に対してどのように感じるようになったかを確認。Gregersen 曰く、多くの参加者は、課題に対してより前向きな気持ちになったり、解決できそうだと感じるようになる。研修実施経験上の印象としては、ファシリテーターのスキルや雰囲気にもよるところや、社風によるところも大きい。


2)問いの分析:書き出された全ての問いを分析し、カテゴリーに分ける。3−5つの特に示唆に富む、または課題の枠組みを根本的に変えるような突出した問いを選び出す。

3)行動のステップ:その中から更に、1つの問いを選び出し、ディスカッション、リサーチ、検討などをどのように進めて行くかステップ・バイ・ステップの行動計画を立てる。

Question Burst は、比較的手軽に研修に採用できると実感している。研修生にとっても、「答えを出す」よりも、「問いをどんどん出す」ことの方が、抵抗感が無く取り組み易いという声が聞かれる。「答えを出す」場合、「正しい答えを出すこと」に気を取られすぎ、発想が縮こまってしまうからだろう。常に「問い」続けることは、Jeff Bezos 、Elon Musk, Mark Benioffのような凄腕のビジネス・パーソンも推奨しているので、トレーニングに取り入れることの価値は大きいと感じている。

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