[連載中] 新しい価値を創り出す人財【19】

19. 本当に解決したい課題を持つ人財(4)

この数年、知人や友人の中にがんで亡くなった方が数人あって、がんの恐ろしさを身近に実感として感じることになった。また、女性の知人の中には乳がんを経験した人がかなり多く、「アメリカでは8人に1人は乳がんに罹る。」といわれるが、まさしくピンとくる。これまで概ね健康上の問題があまり無かったので、やや無頓着気味だったことを反省して、最近は様々な健康・医療関連記事や情報ソースに目を向けるようにもなった。日本では周知の事実だそうだが、日本人が人生のどこかでがんに罹る率は2人に1人とか。(*注)がんがもたらす社会的、経済的インパクトはもちろんのこと、人々の心に与える精神的インパクトも多大なことは明らかだ。

(*注)American Cancer Society によると、アメリカでは、生涯にがんにかかる率は約40% とされており、目立った男女差は無い。人種別には白人の罹患率が最も高く、がんによる死亡率は黒人が最も高い。これには、医療、保険へのアクセスや収入など社会的要因が影響していると考えられている。

 

JAMA Oncology の推計では、29種類のがんが世界204カ国にもたらす経済的コストは、2020年から2050年の累計で、$25.2 trillion に上るとのこと。この数字は、中国のGDP (2024年に約$19 trillion)を上回る。がんがもたらす経済的インパクトも反映して、がんを対象とした研究開発費の規模もかなり大きい。アメリカのがんに対する公的研究費が医学生命科学全体の約1〜2割、製薬企業のR&D費の約2〜3割前後(最大4〜5割とする分析もある)と言われ、IQVIA Institute のリサーチによると、開発パイプライン件数に至っては、全体の約4〜5割を占めるという統計もある。

 

がん治療薬開発は、大手製薬会社が主導権を握ってきたが、最近はこの重要な社会課題に取り組む起業家やスタートアップも大学の研究室などから登場している。今回は、そのようなチャレンジに果敢に取り組んでいる日本のスタートアップ、リンクメッド社の創業者&CEO, 吉井幸恵さんについてお話しする。

 

(ケース4)Link for Life:人々の健康と幸せのために、最先端科学と医療をつなぐ


治療難易度の高いがんに対する放射性医薬品開発に取り組むリンクメッドの創業者&CEO、吉井幸恵さんに出会ったのは2024年9月のことだった。リンクメッドは、毎年9月に行われるNEDO のスタートアップ支援プログラムに採択され、吉井さんは、CFO の吉崎さんと共に、シリコンバレーを訪問されていた。私はこのプログラムに参加するスタートアップに対して、メンターとしてアドバイスをする立場で、過去数年間に渡り、数多くのスタートアップと出会うチャンスに恵まれて来た。日系大企業を対象としてコンサルティングや研修を実施する一方で、日本発のスタートアップとの出会いからは、大企業とは違った日本の新しい活力や将来への希望のようなものを感じることができる。何よりも、起業家として社会的課題の解決に取り組んでいる方達の純粋な目的意識や勇気に触れることが嬉しい。

 

2024年の初対面の時、聡明、前向き、行動力抜群のCEOである吉井さんと、確実にしっかりと地固めをするCFO の吉崎さんの絶妙なコンビという印象を受け、スタートアップを牽引していくチームとしては、とても良い組み合わせだと感じた。吉井さんの笑顔とポジティブな姿勢からは、スタートアップとしての様々なチャレンジを、次から次へと克服することを苦とせず、むしろ楽しんでさえいるような印象を受ける。最先端技術と医療を繋げる高度で、複雑なチャレンジに取り組んでいるにも拘らず、彼女はとにかく明るく、よく笑い、好奇心と探究心で目が輝いている。重要な社会課題に本気で取り組み、人々の幸福をパーパスにして、新しい価値の創造に取り組んでいるからこそ、自然と生まれる明るい表情。彼女から事業化マイルストーンの進捗状況やアメリカへの事業展開の展望について話を聞いていると、彼女の笑顔につられて、こちらまで微笑んでしまう。そして、彼女の好奇心と探究心に刺激されて、「こうすれば、できる!」「そういう手もある!」とブレーンストーミングが活性化する。自分のアイデアが豊富なだけでなく、周りにいる人にも刺激を与えられるのは、新しい価値を創造できる人に共通する重要な資質かも知れない。


2026年1月 シリコンバレーでの再会


2024年9月から、わずか1年半弱の内に、リンクメッドは、日本で第3相医師主導治験を進め、
シリーズB の資金調達に成功し、量産体制を整えるための工場を千葉県に建設するという、目覚ましい進捗を遂げた。今回、JPM Annual Healthcare Conference 2026で発表する目的でサンフランシスコを訪れた吉井さんは、相変わらず笑顔に満ちていて、今後の展望をいろいろ語ってくれた。

 

リンクメッドのウェブサイトには、下記の記述がある。がん患者のペインポイントに焦点をあてた、素晴らしいソリューションだと思う。友人や知人のがんとの戦いは、多くの場合が正常細胞に対する副作用を耐え忍ぶ苦しい戦いだったことを思うと、リンクメッドの取り組みが成功し、脳腫瘍のようながんから、更により罹患者の多い肺がん、大腸がん、乳がんなどにもそのテクノロジーを応用して広く普及することを祈るばかりだ。

 

”これまでのがんに対する放射線治療や化学療法では、治療効果が十分でない、正常細胞に対する副作用が大きいといった問題がありました。一方、私たちは、こうした問題を克服しうる『銅の放射性同位体64Cu(カッパー64と読みます)を用いた放射性医薬品』を開発してきました。64Cuは、従来の放射性治療薬で使用されてきたベータ線のほかに、オージェ電子という特殊な放射線を出し、がん細胞を高いエネルギーで効果的に治療できます。また、64Cuは陽電子も放出するため、陽電子放射断層撮影(positron emission tomography; PET)診断で非侵襲的にがんへの薬剤集積を確認しながら治療(見ながら治療)することができます。”

 

日本発の画期的なソリューションとして、グローバルに展開できる可能性を十分感じさせてくれるリンクメッド、世界の人々の幸福のために、今後も益々の発展を期待している。

(つづく)

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