[連載中] 新しい価値を創り出す人財【20】

20. 将来の人財を育てる教育とは?(1)

日系企業向け研修プログラムではよく言及してきたが、経産省が2022年に公開した109ページに渡る「未来人材ビジョン」という資料がある。その内容がかなり衝撃的なので、公開の後しばらくは、X (当時ツイッター)でも結構話題になったと聞いている。日本の経済構造改革推進を任務とし、産業政策の展開、経済成長戦略推進を主導する役割を担う経産省が各方面の有識者を集めてまとめた資料ということで、日本のブレーンにあたる人たちが、日本の人材の現状をどのように捉え、未来のためにどのような人材が必要と考え、どのように育成しようとしているのか、私も強い関心と興味を持って目を通した。経産省のまとめた資料らしく、独自調査やOECD の調査データも含まれていて、説得力がある。この資料に目を通して、頷けることが多く、日頃感じて来たことが、自分の直感だけでなく、データでも示され、有識者の認識とも共通項があったことは、多少とも嬉しかった一方、ここで示されている厳しい現実を再確認して、日本の将来にはチャレンジが多いことを改めて痛感した。細かい文字のレポートでは無く、グラフも多い読みやすい資料なので、詳しくは上記にリンクを埋めた資料に目を通すことをお勧めする。


求められる人材やスキルに関する認識

未来ビジョンでは、デジタル化の急進行、AI の導入で労働市場の両極化が起こっているとしている。すなわち、低スキルと高スキル業務は、増加するのに対し、中スキルの部分は、自動化、AI などが代替して行くということ。このレポートが発表されて2022年から3年半の間に、この傾向には加速が掛かって、アメリカでは既に労働市場の両極化が顕著になっている。それを受けて、同資料では「リスキリング、アップスキリングの必要性やロボットやAI との共生の仕方に対して関心が高まっている。」とされているが、企業のレベルでも、個人のレベルでも、どのような方向性や分野のどのようなスキルに「リスキル」したり、「アップスキル」したら良いのか分かっているかどうかは大きな疑問だ。今、自分が25歳くらいで働いた経験が3年くらいしか無く、ちょっとしたコードが書けるくらいのスキルしか持っていなかったら、どういう分野でスキルアップを図るだろうか?そして、どのようなキャリアパスを頭に描くだろうか?


アメリカにおけるテック・セクターでのレイオフは、2025年に本格化し、その対象になったのはエントリーレベルの20代前半、中スキルや、将来高スキルに育って行くはずだった高学歴の20代後半から30代前半の若手、コスト高の40代の中間マネージメントと幅広い。身近にもレイオフされた人が目立つようになって来ており、昨年12月末にレイオフされた知人の若者は、高学歴でテック企業での経験が数年あるが、まだ仕事が見つからず苦労している。彼は2ヶ月の間に50以上のアプリケーションを出したが、面接まで行ったのはわずか3社だけ、2次面接まで到達したのは2社だけだったという。彼の場合、「自分にしかできない仕事」「自分のユニークな価値」を履歴書や面接上で表現するのに苦労している様子だ。今までは、テック企業のプロダクト・マーケティング部門に空きが出たので、そこに、マーケティング分野の職歴をアピールして応募すると、比較的簡単に職が見つかったのに対して、多くのテック企業ではマーケティング戦略策定や実行プロセスにもAI やオートメーションが導入されていて、簡単に人を雇わなくなっている。すなわち、中スキルの職は枯渇して行く傾向が鮮明になっているということだろう。


教育のあり方と未来の人材に求められるスキルや能力のギャップ

話を日本に戻す。第二次大戦後の日本の教育が生み出した平均的に極めて質の高い労働者層は、日本の高度経済成長の土台となった製造業を中心に、社会的、経済的に重要な役割を果たして来た。この日本の得意とする質の高い労働者の多くが、経産省がいう「中スキル」の業務と呼んでいる製造業務、事務、販売業務に就いてきたので、AI や自動化による代替によるインパクトを最も受ける労働者層になってしまった。そして、これまで主流だった仕事を正確にこなす中スキルの労働者を育てる教育の価値を経産省も疑問視している様子だ。アメリカでもそうだが、学校のカリキュラムの刷新には時間が掛かる。特に日本の指導要項の正式改訂は、10年に一度で、一番最近の改訂は、2017年(小学校・中学校)および2018年(高等学校)に告示されたもので、2020年度から順次実施を開始したとのこと。


2017年に告示されたものが、2020年から実施というペースはかなり遅い印象を持つが、周到な準備に基づいて、教員研修を行い、実施に移すということになるとこういうペースで精一杯なのだろうか?この告示以降、世の中はパンデミックを経験し、パンデミックから回復、AI が急速に普及、トランプ政権の政策の影響で起こった世界の政治経済の状況の激変に直面している。そういう激動の時代に2017年に告示した指導要項にもとづいた学校教育を地道に実行して行くだけでは、子供達、若者たちが生き残り、更に活躍して行くには不十分なような気がしてならない。これは、文科省がどうだとか、学校や教師がどうだとかという話ではなく、私たち大人が全員で総力をあげて取り組んで行くべきことだと思っている。実際、アメリカで試みられているいくつかのプログラムは、いわゆる教育の専門家でない人たちがイニシアチブをとって始めたものがある。次回からは、そのようなプログラムについていくつかご紹介したい。

(つづく)

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