[連載中] ヒューマン・コネクション【22】
北海道のサマーキャンプ(その1)
3月下旬、今年の夏北海道で開催するサマーキャンプの準備でお忙しい石神友希穂さんに、留学までの経緯、教育に興味をもったきっかけ、高校生向けのサマーキャンプを開発することになった背景など、盛り沢山のお話を伺いました。その内容を今回と次回に分けてヒューマン・コネクションのセクションでお伝えします。
スタンフォードの魅力は社会課題の解決
Atsuko: 今日は、お忙しいところお時間をいただいてありがとうございます。よろしくお願いします。
Yukiho: こちらこそ、よろしくお願いします。
Atsuko: Yukihoさんは、スタンフォードでMBA を取得した後に、スタンフォード大の教育学部大学院にも行かれ、今はサンフランシスコにお住まいとのことですが、もともとは、日本で生まれて、日本の学校へ行かれ、大学は東京大学というご経歴ですよね。
Yukiho: はい、そうです。
Atsuko: そこから日銀に就職されて、その後、大きな転機があって、スタンフォードのビジネススクールに行かれたんだと思いますが、その辺の経緯や、どんな理由や動機でスタンフォードに行くことを決められたのでしょうか?その辺を伺ってもいいですか?
Yukiho: はい。もともとアメリカの大学に行ってみたいっていう思いは、実は高校生の頃から持っていた。17歳の時にスタンフォードの高校生プログラムに参加したんですね。当時アメリカ人の中で自分一人日本人みたいな感じで苦労もありました。日本育ちで英語もそれほどできませんでしたし。でも凄くいいところだな、来てみたいと思ったのですが、授業料を見て、びっくりしました。それで、大学は日本の大学に行こうと思ったのが高校生の頃でした。
Yukiho: その後、会社によっては社費で留学させてくれるところがある事を知りました。大学生の時から、社会人になってからアメリカの大学院に行こうって思っていたので、十年越しくらいのプランではありました。なので、実はスタンフォードのMBAに来たのも日銀の社費派遣で来たということです。急に思い立ってというよりは、17歳の時の想いを実現したっていうことだったと思います。
Atsuko: 17歳の時にそういうビジョンがあったのですね。それは、感心。そのビジョンに基づいて、着々とそこまで準備して、その目標を10年掛けて達成したというのは凄いですね!
Yukiho: はい、そうなので結構こういう話は今の高校生にもしています。今すぐに、海外に行くのは難しい状況があっても、大人になってからも機会があるという話です。勿論、今行けたら素晴らしいけれども、まあ大人になってからも機会はあるので、がっかりしないように、という話をしています。
Atsuko: なるほど。確かにおっしゃる通りですね。私も、留学は社会人になって会社勤めを3年した後でした。今でも思うのですが、少し社会経験をして、課題意識をもってから大学院で留学するのが、ベストという気がします。ところで、ビジネス・スクールはスタンフォード以外も考えられましたか?スタンフォードを選ばれた理由は?
Yukiho: はい、社費留学だったので、この年に受からないとダメみたいなのがありまして、いろいろ受けました。最終的にスタンフォードがいいと思ったのは、やはり社会課題の解決を重視している点でした。どこのビジネス・スクールも似たようなことを言っていますが、いろいろ調べたところ、スタンフォードの社会課題解決は、本物だと感じました。説明会や卒業生からの話を聞いたときにも、それを感じました。
Atsuko: なるほど、Yukihoさんにとって、社会課題の解決はとても重要だったのですね。実際にビジネス・スクールに来てみて、スタンフォードの社会課題に対する本気度を実際に感じることはできましたか?例えば、クラスメートや卒業生でそういう取り組みをされている人との出会いとかがあり感銘を受けたとか?
Yukiho: はい。Social Impact ClubやEducation Clubのリーダーをして、社会課題の解決に本気で取り組んでいるクラスメートたちにたくさん出会い、勇気をもらいました。また、ビジネススクールとd.school共催のDesign For Extreme Affordabilityという授業では、デザインシンキングに基づく社会起業を実践しながら学べました。クラスメイト、先輩、先生方には、卒業後もアドバイスをもらったり助け合ったりしています。
地域格差、ジェンダー格差の根本的解決は教育から
Atsuko: スタンフォード・ビジネス・スクール卒業後の石神さんのキャリアパスが割と面白いなと思っているのですが。。。ビジネス・スクールの卒業生は、コンサルティング会社に行くとか、スタンフォードだと起業家になる人もすごく多いですし、あとプライベートエクイティに行くのもすごく流行ってますし、そういうよくあるキャリアパスでは無く、教育学部の大学院に進まれましたよね。ビジネス・スクール卒業後に、新たにまたもう一つ勉強しようと思われたのは?そして、教育について学ばれることにした理由は、何だったのでしょう?
Yukiho: 日銀時代に函館に転勤をしたことがありまして。それが就職後、ほぼ一年目の最後みたいな本当に若手の時でした。私は東京出身なので、函館で地方の現実みたいなことを初めて目の当たりにしました。仕事が地域経済調査だったので、地域経済について考えたり調べたりしましたし、仕事の外で出会った同世代の友達から話を聞いたり、地元の様子を見たりしていると、いわゆる地方格差、教育格差、体験格差、経済格差のような様々な面での格差がとても見えてしまって、かなり驚きました。ただ、その時は圧倒されてしまって、何をやるかという結論までは全く至りませんでした。転勤が終わって東京に戻ってからはもう仕事が忙しくて、自分のことで精一杯でしたし、ビジネス・スクールも受験したりして、函館で見たり聞いたり思ったことは、どこかにしまわれてしまってたんですね。
Yukiho: それから、しばらくして、スタンフォードの自由な雰囲気の中で、東京の忙しい日常から解放された時に、函館のことを思い出したんです。函館で見たり聞いたりしたこと、いろいろな課題があったことを思い返しました。様々な課題が密接に結びついて、悪循環みたいになっているので、函館にいた頃は、どれを解決したいかっていうのを決めるまでには至らなかったのですが、でも「やっぱり人だ!」みたいな想いがあって、最終的には、理路整然とした理由というよりは、気持ち一つで教育やりたいと思ったというようなところがありました。
Atsuko: なるほどね。函館のような地方のある程度の規模の都市ですけれども、そういうところでも東京と比べるとかなり格差があるということを痛感されて。やはり函館のような地方都市の方たちに元気になってもらうというか、色々な機会を紹介したり、環境を作ったり、そのためには、「やっぱり人だ!」と思われて、「教育をやりたい」という気持ちになられたってことなんでしょうね。
Yukiho: はい、仰る通りです。結構大学出てすぐに函館に行ってたので、まだ自分は半分大学生みたいな感じじゃないですか。そういう時に、大学に行くっていう選択肢が身近に無かったという人の話を聞いたことの衝撃がありました。私の同い年の友達とかに、そういう選択肢が無かったという話を聞いたときです。遠くの国の話でもなくて、同じ年に日本で生まれて育ったのに、こんなに機会が違ったのかということに驚きましたし、納得できなかったみたいなことが当時はありました。
Yukiho: それから、女性の問題も気になっていました。東大も女子学生は学生の二割だけですし。
Atsuko: 東大の女子学生比率は、まだたったの二割なんですか?それは、ちょっとびっくり。
Yukiho: ずっと二割なんです。グラフ見ていただくとずっと横ばいです。私も卒業してからしばらく経ちましたけれど、ずっと変わらずまだ二割です。それから、企業の総合職も女性は二、三割くらいです。
Atsuko: え、そう?総合職が、まだ女性二、三割なんですか?管理職や取締役を三割にするとかいう動きのことがニュースになっているので、総合職は、四割とか五割近くになっているものと、思っていましたが、採用の時点で二、三割では、無理ですね。これも、驚きました。
Yukiho: 私が就活していた時は、25%とか三割女性を採りたいということで、採用担当の方々、頑張ってらっしゃるみたいな感じだったんですね。
Atsuko: そうですか。本当に?これはかなりびっくり。
Yukiho: そうなんですよ。言ってしまえば、ジェンダーで言えば、自分がマイノリティ。常に女性一人みたいな感じの環境にいることが増えたことも気になっていました。高校までは共学だったので半々だったんですけど。
Atsuko: 私も、そういう感じたこと、良く覚えています。高校、大学までは、男女差を感じなかったのに、就職すると何故、急に差が付けられて与えられる仕事の中身まで差がつくのかって、当然ながら思いましたね。
Yukiho: 東大の二割のことですが、何でこうなんだろう?みたいことを考えた時に、一つは、例えば地方から女性が東京に進学してこないとか。その同じ進学でも浪人せずに現役で受かったところに行くとかっていうことがあって。
Atsuko: 頑張って浪人までして東大に行く人は女性には少ないのかもしれない?
Yukiho: 浪人自体のハードルが高いということだと思います。どうしたらもっとみんな来てくれるかなと思いました。私はたまたま恵まれて、いろいろなバリアがもともと無かったり、あってもスイッと超えられてスイスイとここまで来たわけなんですけど。特に地方の女性には、社会的にもいろいろなバリアがあるのだなと。
Atsuko: なるほどね。そうだったんですね。 私も東京で働いてたのは大昔なんですけど、1980年代ね。まあ女性の総合職なんてほとんど無かったですね。
Yukiho: うちの母は、それこそ初代総合職みたいな世代だったんですけど、薬学部で、製薬会社が「女性はいりません。」とかって言っている時代だったというのは聞いています。今でも社名覚えてます(笑)。
Atsuko: 多分石神さんのお母さんと私は同じくらいの年代ね。私も就職活動をしている時に、大手の銀行とかが、女性は「自宅通勤者のみ」という条件をつけていて、地方出身でアパート暮らしの私は受けられない、という変な状況。大学の就職担当の人たちも、それを当たり前と受け止めている時代。
Yukiho: 私の時代は、逆に大手企業は女性を二割三割取らなきゃいけないから。「来てください。」ってよく言われてたんです。そこは変わったんですけど、人数ももちろん増えたし、多分一人しかいなくても一人がフィーチャーされることが増えたので、すごく増えたような印象を与えていると思いますが、でも絶対値で考えるとまだ全然だと思います。
Atsuko: そうですか、やっぱり日本では首相も女性になったし、まだまだ頑張らないといけないですね。
Yukiho: 本当にそう思います。
Atsuko: スタンフォードでいろいろ考える時間ができたときに、函館時代のことを思い出して、地方の格差のことを思い出し、また東大のことや総合職のことを考えて日本の女性のことを考えたりして、これは、やはり人だ、教育だ、ということになった訳ですね。教育学部ではどんな事を勉強されたんですか?
Yukiho: はい、ビジネスとアントレプレナーシップを使ってこう教育格差をなくしていくと考えた時に、ちょうど時期がチャットGPTが出た時期にスタンフォードに来たっていうのもあって、AIと教育がもう一世を風靡している状況でしたので、自然とAI を使ったEdTechに興味を持ちました。
Yukiho: ところが、ビジネスサイドの人間が作るプロダクトっていうのは、教育学のこととか、学校の現場のことをわかっていないので、使えない代物を作ってしまったり、売れるものを作ることが優先されてしまって、本当の良い教育を達成するものにはなってないこともありました。売れるものと、本当の良い教育を達成するものってイコールで無い事を認識して、疑問を感じました。そういう風になりたくないっていう思いが凄く強かったですね。なので、ちゃんと教育学のことを分かって、現場のことも分かって本当に使えるし、学びを良くするものを作れるようになりたいという思いが強かったので、カリキュラム・コンストラクションという授業を取ったり、ラーニングサイエンスを学んだりとか、学びのクオリティみたいなことも学びました。
ヒューマン・タッチのサマーキャンプ開発
Atsuko: 教育学を学ばれた後に、AI を使ったEdTech のスタートアップで少し仕事をされてから、更にもう一度方向転換をして、北海道で行うサマーキャンプを企画することになったのも、面白いですね。方向転換というよりは、教育学を学ばれたその延長として、そういう企画をすることになったということでしょうか?それにしても、北海道で行う日米の高校生向けのキャンプ、これは、もう全然AI では無くて、ヒューマン・タッチですね。
Yukiho: そうですね、はい、人間そのものです。AI のEdTech の仕事をし始めた時は、テックを使って教育格差が解決できるんじゃないかと思って、AIを使ったプロダクトの世界展開をしたり、プロダクトを各国の指導要領に合うように変えたりとかもしていました。同時にボランティアで、日本の高校生や大学生がシリコンバレーに来るというプログラムでお手伝いをしていて、参加者の若い方たちとお話する機会が結構あった時に、自分が直接話したりとか、実際にその学生さんたちがスタンフォード見たりとか、いろいろな人の話聞いたりしてる中で、人生が変わるような経験、学びをしてるなっていうのが、側で見ていて、すごく伝わってきたんです。それで、こういう人生が変わるような学びは、AIのプロダクトじゃ絶対できないと感じました。そういう学びを、もっと身近にしたいと思って、今回北海道で行うサマーキャンプを企画することにしました。
Yukiho: 留学って、昔も今もすごく高いじゃないですか。特に最近は円安とインフレで。特にアメリカの場合、コストがとても高いですよね。それで日本の一般的な家庭だと、とても来るのが難しい。いわゆる恵まれた家庭の子たちしか来られないのが残念です。そこで、国内で実施すれば、費用も抑えられるので、もっと幅広い層に、留学のような学びの機会を届けられると考えました。
Atsuko: そうすると、ある意味では環境の素晴らしい北海道に留学疑似体験ができる場を作ってしまうという感じですね。
Yukiho: そうです。アメリカの高校生も連れてきて、スタンフォードの仲間も来て、留学のような環境にします。日本国内での短期「留学」プログラムみたいな感じです。アメリカの高校生も、日本について学びたいとか、日本の友達が欲しいみたいな子たちが来るので、良い雰囲気になると思っています。
Atsuko: なるほどね。プログラムの期間は二週間でしたね。二週間の中に。その日米の高校生が一緒に集まって、お互いの理解を深めるような活動があり、それから一緒にチームになって何かプロジェクトをやるみたいな。そういうコンテンツもあるんですか?
Yukiho: はい、二週間です。プログラムには、いくつか柱がありますが、まず一つは、言語交換です。実際にペアを組んで、日米の高校生が言語を教え合うみたいなこともしたいと思ってます。お互いわからないと思うので、大変だと思いますが、それでも、通じないけど頑張るみたいな経験が多分一番大事だと思っています。特にグローバルに活躍していくには、そういうところが大事だと。それから、もう一つの柱は、先ほどグループ活動って言っていただいたんですけど、ま、日本で最近流行ってる言葉でいうと社会課題の探究みたいなこともするんですね。気候変動、少子高齢化、多様性みたいなテーマを取り上げて、一週目はどちらかというとインプットとディスカッションをします。
Yukiho: 日銀で働いていて、日本経済とかについて得た知見があるので、教えたいことや視点があって、インプットの一週間目には、そういう話もします。多くの社会課題が、日本の課題でもアメリカの課題でもあるし、世界の課題ですよね。それを学ぶインプットが一週目です。二週目は、実際にそのうちの課題を一つ選んで、日米の高校生でグループを組んで解決策を一緒に練り、最後にプレゼンするというようなグループワークを予定しています。せっかくの北海道なので、外に出てもらって、フィールドワークもしてもらいます。函館を見てもらうと、悲しい面もありますが、本当に気候変動が農業や食品加工業などに影響していたり、少子高齢化がどんどん進んでいたり、そういうことが見えるんです。
(つづく)