[連載中] ヒューマン・コネクション【32】

ライティングを通じて母の世界に繋がる


Human Stories のニュースレター配信を始めてから、約2年の間に50近くのエッセイを書いた。その間、実際に出会った人々や、体験した出来事を通じて、気づきや感想を書き留めることを心掛けるようになった。単に「メモ」というタイトルで書き留めているのだが、時には日記風になったり、ポエム調になったり、To-do リスト的になったり、その日の自分のモードで、書き留め方も変わる。ビジネスモードになっているときは、To-do リストっぽくなるし、アートに触れてその余韻に浸っているときは、ややポエム調になる。世の中で起こったことや、エピソードから深く感銘や衝撃を受けたときには、感情移入たっぷりのやや大袈裟なドラマチックなトーンになる。

そうこうしているうちに、自分の書き留めた「メモ」からストーリーが生まれてきて、フィクションのような展開になることもあることに気づいた。それで、ある日思い立って、本当にフィクションを書いてみようと言う気になったが、これが本当に難しい。発端は、どこかのブログで読んだ不思議な出来事から想像が膨らんだのだが、そのブログに現れたキャラクターでは、なぜか話が進まない。そこで、登場人物を考え直して新しいキャラクター3人を作り出した。一つの街を舞台に、年齢、人生の経験、性別も違う3人のキャラクターを作り、この3人の接点とそれぞれの感情に想いを馳せて一つのストーリーになる予感がしてきた。短いストーリーだが、何回も書き換え、表現を変え、読み直し、言葉を加え、ある部分は思い切って削除し、削除した後で後悔し、また書き足して。。。という作業を続けて行くと、とにかくキリが無い。

キリの無い悪戦苦闘は、行き先の光が見えないトンネルの中にいるようで結構辛いが、幸い(?)地元紙が主催するショート・ストーリーのコンテストの告知を見た。全くの素人が挑戦するには、過去の審査員の顔ぶれからしても、相当高い壁だという印象を持ったが、結果はともあれ、このコンテストの応募締切日が2週間後と知って、逆にモーチベーションがムクムクと頭をもたげた。締め切りまで、頑張って書いて、「とりあえず応募してみる!」ということが目標になり、励みになったのだ。そういえば、生前の母はかなりの数の短歌を書いていたが、短歌の会に属して毎月いくつか提出しなければならなかったので、「いつも締め切りギリギリにワーっと提出してるのよ。」と笑っていたことを思い出した。私も、母と同じで締め切りというプレッシャーが必要なのだと気づく。特に、私には短期戦が向いていて、数年後の締め切りで無く、「2週間後」というところが、まさに最適。2週間後、締め切り時刻まで1時間くらいのところに迫って、ストーリーは、完結したのだが、エンディングには、イマイチという感じがあって、本当はもう少し手を加えたかった。しかし、今修正を加え始めると収拾がつかなくなりそうな気がして、「good enough」の精神でsubmit のボタンを押すことにした。「good enough」ではあったものの、書き終えた時には、ぐったりしてしまった。それにしても、次から次へと大掛かりなストーリーを生み出すStephen King やDean Koontz など、フィクション界の大御所の方々は、物凄い想像力、創造力、エネルギーの持ち主だと改めて感服する。

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「締め切りギリギリにワーっと出している。」と言っていた母の短歌には、急いで仕上げた様子はあまり無く、彼女の視点、想いや気づきが鮮明なビジュアルのイメージと共に表現されている。ちょっと時間ができた時に、母の短歌を少しずつ読み返しているのだが、鮮やかな色彩が目に浮かぶ短歌がかなりある。真夏の眩しい太陽と青空、炎のような夕焼けの空、終戦の日に見上げた深紅の百日紅の花、淡い緑色の若いカマキリ、夏の早朝に花開く深い紫色の朝顔、初秋の蒼い月、台風を生き延びたピンクのコスモス。そういう情景が、彼女の青春時代と切り離せない戦争体験、娘たちが巣立ってからの淡々とした田舎の街での日常、遠い街や外国に住む娘や孫への想い、昔ながらの隣近所の人々との関わりなどと重なって表現されている。5・7・5・7・7という制約の中に、凝縮されている世界、そして遥に見渡すような心象風景の広がりに感銘してしまう。母がまだ生きていた頃に、彼女の短歌をもっと読んで、いろいろ話を聞いておけば良かった。。。後悔先に立たず。

母の短歌を読み始めて3年ほど経った。エッセイを書き始めて2年近くの間、母から無意識に影響を受けているかもしれない、という気がしている。エッセイやニュースレターを書きながら、自分の中に文章や言葉よりは、「ある光景」がいつも蘇っていることが多い。その「光景」があって、文章が生まれてくる。母の短歌は、その一つ一つが「ある光景」を生き生きと映し出している。数年前から読み始めた母の短歌が知らず知らずのうちに、自分自身のライティングの世界に入り込んで来てくれて、母との繋がりを感じられるのは、何よりも嬉しい。私にとってのライティングは、自分の想いを人に伝えると同時に、母との繋がりを確認する意義を持っていたのか。そう思うと、目の前に現れる光景を言葉にして行くことに新たな喜びを感じる。

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エピローグ

Congratulations! The Palo Alto Weekly Short Story Contest judges have awarded you Second Place in the Adult category for your story.” というメールが届いたのは、ショートストーリー・コンテストに応募してから2ヶ月余り経ち、応募したこともあまり意識しなくなっていたある日の朝だった。何も期待していなかっただけに、驚きながらもとにかく嬉しかった。心に沁みる評を加えて下さった、審査員のElaine Ray さんに心から感謝している。

(つづく)

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