[連載中] 新しい価値を創り出す人財【11】

11. イノベーターのスキル(1)Associating (連想する、関連付けする力)

今回は、前回紹介したInnovator’s DNA で、イノベーターにとって重要とされている5つのスキルの内、Associating (連想する、関連付けする)力が実際の新規事業開発に繋がった例を紹介し (I)、このスキルを強化するためのトレーニングについて説明する(II)。このスキルは異なる分野の一見無関係な特性、課題、問題、アイデアなどに共通項や、補完関係、補完関係の可能性を見出し、両者を結びつけて革新的な解決策を生み出す能力とされている。このスキルを習得することにより、垂直的に業界の常識的な枠内での事業開発をしがちな傾向を脱却し、これまでに存在しなかった製品、商品、サービス開発の発想や視点を持つことができるようになる。

I. Associating (連想、関連付ける) ことから生まれた新規事業の例

<例1>アパレル+ロボット=:アパレルとロボットの機能を融合させたウェアラブル・ロボット

日本でも既にご存知の方も多い、Seismic, Ekso Bionics, LifeWard (元ReWalk) などが代表例だが、ロボットを人が外から操縦するという従来の発想から、ロボットと洋服を組み合わせて、人の体や筋肉の動きのフィードバックにロボットが対応し、人とロボットが一体化する、いわゆるヒューマン・イン・ザ・ループ制御を可能にするという新しい発想が生まれた。この分野で使われている技術の主な要素は下記の通り。

  • マルチモーダル融合
    脳波(EEG)、筋電(EMG)、画像など複数の生体信号・環境情報を組み合わせてユーザーの意図や動作を高精度に認識

  • ヒューマン・イン・ザ・ループ制御
    人間の反応や意図をリアルタイムにフィードバックし、直感的な操作や協調動作を実現

  • 神経筋インターフェース
    筋肉や神経の信号を直接読み取ることで、より自然な動作制御や感覚フィードバックが可能

  • フレキシブルエレクトロニクス
    柔軟なセンサーや回路を衣服のように装着でき、装着感や動作の自由度を向上

  • バイオメカトロニクスチップ
    高速な信号処理とAIによる動作予測・制御を可能にする専用チップ採用


<例2>高齢者+孫世代の大学生=:一人暮らしの高齢者と大学生をマッチングするサービス

一般的には、高齢者と大学生というあまり接点のない二つのデモグラフィック・セグメントを繋げると、案外共通項やお互いのニーズを満たす可能性が見えてくる。多くの高齢者は寂しく、ちょっとした力仕事や、テクノロジーを要する作業に対しては、気遅れしがち。大学生も案外寂しく、少しでもお小遣いが欲しく、人を助けることに喜びも感じる。この二つのグループをマッチングしてサービス化し、実績を挙げているのが、フロリダで創業されたPapaである。

Papaは2017年にフロリダで創業され、「Grandkids On-Demand(必要な時に孫を)」というコンセプトで、孫世代の若者(主に大学生)と高齢者をマッチングし、生活支援や交流を提供している。高齢者の孤独や社会的孤立の解消、生活の質向上を目指し、その主なサービス内容は、下記の通り。

  • 高齢者やその家族が、日常生活のサポートや話し相手、病院への送迎、買い物の付き添い、家事の手伝い、スマートフォンやパソコンの操作説明などを「Pal(パル)」と呼ばれる大学生に依頼できる。

  • Palとなる大学生は、事前にトレーニングやパーソナルテスト、バックグラウンドチェックを受け、合格した人だけが派遣される。

  • 介護や医療的なケアではなく、日常生活のちょっとした困りごとや孤独の解消を目的としている(入浴やトイレの介助などは含まれない)。

  • サービスの利用は主にアプリや電話、SMSを通じて行われ、保険会社や医療保険(メディケア)と提携しているケースもある。

<例3>犬の嗅覚+人の息+郵送医療検査= 自宅でできる癌の初期発見

スラエルのスタートアップ SpotitEarly は、犬の卓越した嗅覚能力とAI技術を組み合わせて、呼気サンプルから複数種類のがん(肺がん、乳がん、前立腺がん、大腸がんなど)を早期発見する技術を開発している。その特徴は下記の通り。

  • 検査方法:患者は専用マスクに数分間呼気を吹き込み、そのマスクを密封して検査施設に送付。施設では訓練された犬がサンプルを嗅ぎ分け、がん特有の揮発性有機化合物(VOC)の有無を判定する。

  • AIとの融合:犬の行動や反応をAIとコンピュータビジョンで解析し、判定の客観性・再現性を高めている。

  • 高精度:臨床試験では早期がん(ステージ0~2)に対して感度95%、特異度94%以上という高い精度を達成している。

  • 複数種類のガン同時検出:1回の呼気検査で複数種類のがんを同時にスクリーニング可能。

  • 非侵襲・低コスト・迅速:身体的負担が少なく、検査費用も従来のがん検査の20%程度、結果も数日で判明する。

この分野の可能性に注目が集まる中、類似のアメリカ発スタートアップも登場している。

  • BioScentDX(米国)
    犬の嗅覚でがんを早期発見する非侵襲的なスクリーニング技術を開発中。

  • Dognosis(米国)
    訓練犬とAIを組み合わせた超低コスト・非侵襲方式で多種類癌の早期発見検査を開発中。

<例4>車の修理+ネイルケア+研修=女性顧客に的を絞った車のサービスと女性支援

ペンシルバニア州のGirls Auto Clinic (GAC) の創始者Patrice Banks は、男性中心の車の修理やメンテナンスに対して、女性が気劣りしがちで、消極的であること、また待ち時間の使い方が無駄になりやすいことに注目して、車の修理センターにネイルサロンを併設し、女性の修理テクニシャンを雇って、女性が気兼なく車の修理やメインテナンスに行ける場所を作った。また、女性向けの車に関する講習を行ったり、採用活動を積極的に行うことで、女性の車の修理メインテナンス業界での就職支援に力を入れている。

II. Associating (連想、関連付ける) 力を強化するエクササイズ

下記のエクササイズの方法は、Innovator’s DNAで紹介され、その後さまざまな研修プログラムで応用、採用されている。その中でも、MIT のエグゼクティブ・プログラムで、2日間集中で行われるコースは、過去10年に渡って実施されてきた定評あるプログラム。Innovator’s DNA の共著者、Hal Gregersen氏自身から受けられるプログラムとして、人気も高い。一点だけ気になるのは、このプログラムが極めて短期であること、対象がトップエグゼクティブになっていることから、これが、実際に組織にどこまで浸透するかという点。

下記のエクササイズは、いずれもワークショップ形式にし、ファシリテーターやコーチの元にチーム構成で行うと、チーム内、チーム間での刺激や励まし合い(+競争意識)がプラスの効果をもたらし、アイデア創出が活発になる。

1. 新しい連想を意図的に生み出す
通常は組み合わせないようなアイデア、製品、概念を意識的に組み合わせてみる。解決しようとする課題に対して、敢えて無関係な物やアイデアを選び、それがどのように課題解決に結びつくか考えてみる。▶️例:農業と都市での生活、車の修理サービスとネイルサロン、クリーニング・サービスと薬局、ファーストフードと宅配など

2. 奇妙な組み合わせを作る
異質または不釣り合いなアイデアを並べ、新たなコンセプトの創出を試みる。異なる領域のアイテムや概念、プロセスをランダムに組み合わせてみる。事前に宿題にして研修生に様々な変わった組み合わせの例を考えてもらい、ワークショップで発表してもらう方法が効果的。▶️例:高齢者とプログラミング、漁師とデータサイエンス、和菓子と住宅建築など

3. 他社の視点で考える
まったく異なる業界の企業のリーダーや社員になったつもりで問題に取り組む。これにより、新たな視点から課題を捉えることができ、分野横断的な思考が促進される。

4. メタファー(隠喩)やアナロジー(類推)を活用する
自社のビジネスや製品、問題をまったく異なるものに例えることで、非典型的な視点から物事を見ることができ、斬新な洞察が得られる。

5. キュリオシティ・ボックス活用する
興味深いモノや記事、小物などを小箱に集めておく。問題に取り組む際、そこからランダムに1つ取り出し、それをきっかけに新たな連想や解決策を考える。ポストイットなどを使って行うアイデア創出の方法と似ているが、ワークショップ前に、実際に物を集めておいてもらい、ゲーム化してアイスブレーカー的に使うこともできる。対面のワークショップでは、カードやポストイットを使うことが一般化しているが、リモートのチームを繋げて行う場合には、いわゆるidea management software と言われるソフトウェアやプラットフォームを使うことも可能。▶️例:
InnovationCast, HYPE Innovation, Wazokuなど。但し、この分野のプラットフォームはAI の普及で変化が早いので留意。

6. SCAMPER法の活用
SCAMPERフレームワークを用いて問題や機会を再考する。ワークショップでは、下記のそれぞれに15分程度の時間を配分して、チーム毎に早めのテンポで多くのアイデアを出してもらうようにする。

  • Substitute(置き換える)

  • Combine(組み合わせる)

  • Adapt(適応させる)

  • Magnify, Minimize, Modify(拡大・縮小・修正する)

  • Put to other uses(他の用途に使う)

  • Eliminate(取り除く)

  • Reverse or Rearrange(逆転・再配置する)
    この体系的なアプローチにより、新たな連想や可能性を構造的に探索できる。

7. ズームイン/ズームアウト
全体像と詳細の両方に交互に焦点を当てることで、異なる抽象レベルでの関連性を見出し、通常は見落とされがちな連想を発見できる。

8. レゴ思考
既存のアイデアや能力をブロックのように再構成する。多くのアイデアを集め、それらをさまざまな組み合わせで試すことで、新たなコンセプトの創出を図る。ワークショップでは、ポストイットなどを使って、レゴのブロックのようにアイデアを様々な形で組み合わせる練習をする。

(つづく)

Next
Next

[連載中] ヒューマン・コネクション【9】